onちゃん入学、日ハム新球場建設構想……最近ニュースでもしばしば取り沙汰される北海道大学。いずれのニュース映像にも映っているのが、北海道大学総長の名和豊春氏(63)だ。今年4月に総長に就任してまだ間もない名和総長だが、総長就任後初めて迎える来月の北大祭についてはどんな印象を持っているのだろうか。北大OB、前北大教授、そして現北大総長にとっての北大祭に迫った。名和総長、北大祭どうでしょう。

「当時は今みたいにカラフルな様子ではありませんでした」

インタビューに応じてくれた名和豊春総長。

「大学祭は好きですよ」

 そう語る名和総長は、北海道三笠市の出身。学部2年生までは三笠市の実家から二時間半ほどかけて北大まで通学していた。そのためサークルには入らず、必然と北大祭との関わりも薄かった。転機となったのは学部3年生のとき。所属していた建築学科の催しで錯視を利用した展示を行ったほか、客寄せのためにお化け屋敷を開いたという。また、当時の北大祭の企画である『マラソン大会』に出場したり、クラーク会館で講演を聞いたり映画『橋のない川』を観たといった思い出を、当時のパンフレットを眺めながら述懐してくださった。

名和総長の学生時代の北大祭のパンフレット。

40年以上前のものなので年季が入っている。

 そんな昔懐かしい北大祭、当時の雰囲気はどのようなものだったのだろうか。

 「当時は今みたいにカラフルな様子ではありませんでした」

 名和総長曰く、当時と今の北大祭の最大の違いは模擬店の活気にあるとのこと。当時は各学部棟で行われる企画がメインで、1年生やサークルなどが出店する模擬店の数・規模ともに小さかった。学生が工夫を凝らして模擬店を中心に多様性を見せる現在の北大祭を指して、名和総長は「カラフル」と表しているのだが、当時は今ほど「彩りのある」様子ではなかったというわけだ。

また、名和総長が大学生活を過ごしたのは1970年代。学生運動や大学紛争の余波が残る時代だ。そんな世相を反映してか、北大祭の中でも政治的な議論をしようとする動きが強かったという。

「大学祭にも華やかさというのはなく、真面目という感じがありました。カラフルでいいとは思いますが、今の工学部の前のような着ぐるみを着て歌ってなんてこと(筆者注、工学祭で行われるイベント『ニコニコダンパ』のこと)はまずなかったですね(笑)」

1975年の北大祭のパンフレットの中身。

映画「橋のない川」などを上映していたほか、政治的な内容の講演会も開かれていた。

「責任」と「挑戦」。総長が北大祭で学生に求めるもの。

 名和総長が教員として北大に戻ってきたのは1997年。北大の大学院で学生生活の最後を送った1979年以来、約20年ぶりに見た北大祭の変化について名和総長はこう語った。

「留学生が増えて、国際色豊かな食べものを食べられる(筆者注、留学生が模擬店を出すInternational Food Festival、通称『IFF』のこと)ようになったのがすごくいいですよね。それに一番びっくりしたのは博物館がオープンしていること。昔は理学部の校舎だったのですが、博物館ができたことによって大学祭の彩りもよくなりました。また、北の方(筆者注、北18条以北の獣医学部や低温科学研究所などの「北キャンパス」のこと)でも企画が行われるようになり、大学祭が全学的なものになっていましたね」

留学生の模擬店がならぶ『IFF』。

 また、こうした変化のためか、北大祭と札幌市民とのつながりが生まれるようになった。

 「私が院に進んだ頃から、だんだんと札幌市民が北大祭に来るようになりました。ただ、特に近年は(IFFで食べられる)国際的な料理などを目当てに、以前にも増して札幌市民が訪れていますね。大学祭が市民に開かれていくのはよいことだと思います」

 

 しかし、北大祭がこういった発展を見せる一方で、2000年に模擬店の24時間営業が禁止されたり、2005年から酒類の取り扱いが禁じられたりと、大学側からの要請で北大祭が何かと制約を受けてきたのも事実だ。学生時代は大学祭を楽しんでいた名和総長だが、大学教員になり大学組織の一員という立場から見た北大祭とは。

 「ここは大学という教育機関なので、学生が自分たちで何かをやるというのはいい。ただ、羽目をはずしてはダメですよね。そのため、残念ながらお酒の問題は禁止という結論に至りました。一番大切なのは、自由であるということは責任を持たなくてはいけないということ。私たち教員は学生の自主性を尊重し一人前の人として扱いたいので、学生にはメリハリをつけて責任を持ってもらいたいんです。だから、大学祭が終わった後に学生たちがきちんと片づけをしている姿を見ると嬉しくなります」

 

 人によってはこの総長からの言葉に厳しさを感じるかもしれない。だが、これも学生の活躍に期待してのこと。北大の総長としてだけでなく、北大祭を楽しんだ先輩として、名和総長は力強い言葉を続けた。

 「学生時代にもっとも必要なこと、それは『胆力を鍛えること』なんです。人から厳しく言われて恥をかいてでも何かをやり遂げる。それが胆力を鍛えるいい経験になるので、若いときのチャンスを逃さないでください。海外に挑戦したり、大学祭で模擬店を企画したりなんでもいいんです。自分のために新しいことに挑戦できるのは若いうちしかありません。だから、若い人が失敗を恐れず創意工夫して何かに挑もうとする姿、特に仲間と一緒にやる姿が私は大好きですね。今度の北大祭でも学生が新しいことに取り組むのを楽しみにしています」

名和総長は学生たちへ熱い言葉を投げかける。

『北大SAI沸騰』……「沸騰っていい言葉じゃないですか」

 インタビューも終盤、「総長」という立ち位置からは北大祭がどう映っているのか、また総長は北大祭がどのようなものであってほしいと考えているのか。キーワードとして出てきたのは「一体感」と「クリエイティブ」だ。

 「地域の共同体の中で仲間意識を強め一体感をつくるのが、昔から『祭』の果たす役割でした。これは北大でも同じで、北大祭のおかげで北大も『かたまりの意識』を高めることができていると思います。また、大学祭によってみんなの意識の共有化が図られたことで、クリエイティブなものを創ろうという意識が浸透し、その結果、毎年違う祭が出来ていく。このように、新しいものに挑戦していくという意欲が毎年続くことこそが大切で、このこと抜きには北海道大学も成り立ちません。大学が目指す教育と同じものが大学祭で実現しているのです。ですから、学生には北大祭でただ浮かれるのではなく、『北海道大学の祭って何だろうか、何をしようか』というクリエイティブな意識を持ってほしいんです」

 

 ここで、大学祭の一体感をもたらし、創造性の方向を指し示すものとして重要なのが、大学祭のテーマだ。今年度の北大祭のテーマは「北大SAI沸騰」。このテーマを聞いた名和総長は、その印象についてこう語った。

 「沸騰っていい言葉じゃないですか。血が煮えたぎるとか、精神が高揚して爆発するだとかをイメージさせますよね。芸術家・岡本太郎の『芸術は爆発だ』という言葉にも通ずるところがあります。そういう意味でやはり、大学祭で自分たちの思いを爆発させる、つまり自分たちの思いをぶつけ表現していくことが大切だと思います。北大生はぜひ、“Boys and girls, be ambitious!”の精神で『祭の沸騰』を目指してください」

今年度の北大祭のパンフレットの表紙。

テーマに合わせた熱いデザインとなっている。

名和総長、北大祭どうでしょう。

 インタビューの締めくくりに、「名和総長にとっての北大祭」を一言で表してもらった。スケッチブックには巨大な「気」の一文字。さて、その文字の意味するところとは。

名和総長からのメッセージを、結びの言葉としたい。

 「第59回北大祭開催おめでとう。今年のテーマは『北大SAI沸騰』と聞いております。皆さんたちの若い、その素晴らしい『気』がそこに集まって、素晴らしい祭に成ることを期待しています。それでは、当日皆さんに会いましょう」

編集後記

 

 北大総長へのインタビューということで緊張していましたが、とても気さくな方で安心しました(笑)。印象に残っているのは、総長のお言葉の端々から大学祭への熱い思いがあふれていたことです。また、私たち学生へ宛てた名和総長の思いには、私自身とても感銘を受けたとともに、総長の今までの人生における経験の深さが感じられました。今回うかがったお話は今度の北大祭だけでなく、今後の大学生活にも生かしていきたいと思います。

 総長に就任されたばかりで大変お忙しい中、本当にありがとうございました。

 

インタビュアー:ツヅキ サクヤ